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東京地方裁判所 昭和30年(モ)1593号 判決 1955年4月25日

申立人(債務者) 田村治平 外一名

被申立人(債権者) 加藤清

主文

当裁判所が昭和二九年(ヨ)第六九五五号仮処分申請事件につき、同年九月一五日なした仮処分決定を取り消す。

申立費用は被申立人の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

申立人は主文第一、二項と同趣旨の判決を求め、申立の理由として、

「一、被申立人は申立人両名を債務者として、当裁判所昭和二九年(ヨ)第六九五五号をもつて仮処分を申請し、当裁判所は、同年九月一五日右事件につき申立人田村治平が稲交通株式会社(当時の商号は三交自動車株式会社)の取締役としての職務を、申立人木野維清が仝社の監査役としての職務を執行することを停止し、取締役職務代行者として弁護士吉原歓吉を、監査役職務代行者として弁護士石川秀敏を選任する旨の決定をした。

二、しかるに同社では、右仮処分によつてその職務を停止された申立人両名は仝年一一月一九日それぞれ取締役及び監査役を辞任したので、同年一二月五日臨時株主総会を開催して、新しく取締役として田村治平、監査役として木野維清を選任する旨決議し、両名は即日就任しその旨の登記を経た。

三、本件仮処分によつて選任された職務代行者の存在は、仮処分決定当時における申立人両名の取締役又は監査役としての地位の存在を前提とするものであるから右役員の辞任により、その適格を失うに至つたものである。してみれば、申立人等の取締役又は監査役としての職務の執行を停止することは意味がなく、且つ代行者を存置する必要はさらにないから、本件仮処分決定は民事訴訟法第七四七条に定める事情の変更があつたものとして取り消さるべきである。」旨述べた。<立証省略>

被申立人は「本件申立を却下する。申立費用は申立人等の負担とする。」との判決を求め、答弁として「申立理由一の事実は認めるが、二の事実は知らない。」旨述べた。<立証省略>

理由

申立人両名主張の一の事実は当事者間に争のないところであり、同二の事実は証人笠原玄一の証言並に、同証言によつて真正に成立したものと認められる甲第一号証の一、二、第二号証及び成立に争のない甲第三号証の各記載により認めることができる。

ところで本件仮処分決定は、申立人田村を取締役及び同木野を監査役として選任した株主総会の決議の効力を争う訴訟を本案訴訟とし、その判決確定までの間右両名の取締役又は監査役としての職務の執行を停止し、各その職務代行者を選任したものであるから、両名が取締役又は監査役たることを前提とすることはいうまでもない。それ故両名がそれぞれ役員を辞任し、その後の総会で新しく取締役及び監査役の選任がなされ、その就任があつた以上、旧取締役及び監査役としての職務の執行を停止することは無意味であり、その職務代行者を置く必要もなくなつたわけである。そうすると、本件仮処分決定は右のような事情の変更により民事訴訟法第七五六条、第七四七条にしたがつて取り消さるべきである。

よつて申立人両名の本件申立を正当と認め、申立費用の負担につき同法第八九条、仮執行の宣言につき同法第七五六条の二を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 岡部行男 太田夏生 宮本聖司)

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